入院症例3 うつ病として診断治療されていた適応障害

key word 適応障害 パチンコ依存症 共依存

20歳代男性

元来潔癖症であった。年に数回激しい腹痛発作があり強い鎮痛剤や鎮痙剤の注射を受けることもあった。現在家族は妻と子供。独身時代からパチンコ好きで、結婚後も給料はほとんどパチンコに注ぎ込み、お金がなくなるとパチンコ代を出せと妻に暴力を振う。しかし妻からみると熱血漢で、子供好きな優しい人である。数年前肉親が亡くなりそれ以後気落ちし、自分の無力、無能力を嘆くようになった。仕事もやめてしまった。1年半前から総合病院精神科でうつ病として治療開始。しかし改善しない為、1年前からクリニックに変わり通院していた。依然パチンコへの執着は強く、借金を作るなど生活が立ちゆかなくなることもしばしばであった。2週間前から小遣いが無くなり、妻とは口もきかず、子供に対しても無関心になっていった。親族の勧めもあり入院治療を希望し前医紹介にて当院受診。初診時「憂うつ気分、やる気が出ない。面倒になる」との症状によりうつ病(外来担当医)として急性期治療病棟開放に入院となる。

治療経過

*入院初日* 主治医(著者)面接

原因不明の腹痛発作がある。1日でよくなるときもあるし、数日続くこともある。それが1-数ヶ月単位の周期である。もう何年も仕事に就いていない。働かない事に周囲から批判があり、人の目が辛い。それで閉じ篭って昼夜逆転していると話す。「自分は神経質で、潔癖で大変な性格」で「今の状況が変わらなければ病状は変化ないと思う」と語った。

 診察コメント:腹痛は心因性だろうと説明。はっきりした声で話し、表情はしっかりしており、うつ状態ではない。あなたの病名はうつ病ではなく雅子妃殿下と同じ適応障害であろうと告げる。治療は一種のトレーニングが必要。入院生活を修行と思って病棟生活に慣れるように伝えた。

不眠に対して、ベゲタミンB 1錠 を処方した。

同日妻とも面談。

「離婚を考えた時もあるが、やれば出来る人だと判っているので、助けて上げたい」と話される。

結論として適応障害であり、妻の援助が逆に本人の自立を妨げている。共依存関係を断ち切る事が治療となる。2―3ヶ月間の入院生活に耐える事が出来ればある程度治療は成功するだろう。入院生活に耐えられず早々に退院すると言いだすなら、突き放すなど奥さん自身が強い態度で臨まれるように話した。妻は主治医のアドバイスを良く理解して了解された。

*翌日*

病院の食事はまずくて食べられない。他患と一緒では風呂に入れないので、一人で風呂に入れるようにして欲しいとの訴えがあり、入浴については本人の要望に添う。

不眠は依然としてあり、鎮静と催眠効果を期待してジプレキサ10mgを処方した。

診察コメント:「他人の目を気にせずに胸を張って生きるように」「主夫でも良い」と話すと、「働かなくても良いのか。随分気が楽になった」と答え、そんな考えでも良いのかと驚いている。

*第3病日*

ジプレキサ10mgでは眠れるが体が重く辛いと言う。ベゲタミンBにレンドルミン1Tを追加しても、睡眠は不十分。以後薬物は リボトリール(0.5) 2錠/1日2回(朝・夕)、セロクエル(100) 1錠/1日1回(夕)に変更したところ睡眠良好になる。

*第7病日*

妻同伴で面接

「もう1週間入院継続して頑張ってみたい。家に帰っても、まだ胸を張れないと思う。病院では外を自由に歩けるのがすごく嬉しい。毎日散歩をして海を見にいっている」と言う。

パチンコをやめる決意を問うと、「働くまでは止めようと思う」と答える。その後3回の外泊をする。

*第20病日*

「パチンコはしたくてやっていた訳ではない。結局逃げで・・・。やっている時点で判っていた。一日を何とかつぶす、周囲の目を逃げるだけで・・・。まずはアルバイトをしてみようと思う」と内心を打ち明ける事が出来るようになる。

*第21病日*

妻と面接

外泊時、機嫌は悪くはないが、家の中で何をするでもなく過ごし積極的には散歩には出ない。

本人と今後についてじっくり話し合って貰うようにアドバイスする。

*第23病日*

「自分としては明日退院したい。今後はアルバイトをして、仕事が無いときは釣りをする。それで駄目ならばデイケアに通おうと思う」

『パチンコはしない』『妻と子供に対して不機嫌にならず普通にコミュニケーションを取る』この2点について主治医と約束をした。「気持ちが穏やかになるので薬は続けたい」と語る。

*第24病日*

退院となり、今後は毎月1回日曜診察(著者の予約外来)に通う事になる。

*退院3ヶ月後*

服薬を継続し、妻同伴で日曜診察に通っている。仕事はしていないが、パチンコは止めており、家庭で不機嫌になる事もない。草刈など頼まれるとやっており、周囲の目も気にならないと言う。妻とは「第1段階(パチンコをやめ、穏やかに生活する)はクリアーしたね」と話し、家庭は平穏となり妻は満足している。

診療のポイント

適応障害の治療は逆説的ではあるが、環境に適応させる事に尽きる。本症例では、「働く」という高いハードルではなく「他人の目を気にせずに胸を張って生きるように」とのアドバイスと入院という別世界に適応出来た自信が劇的な改善をもたらしたと考えられる。リボトリール、セロクエルも情動の安定に寄与していると思われる。

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