入院症例11 アリセプト中止で興奮症状が改善したアルツハイマー型認知症

Key word  アリセプト 賦活作用 過覚醒状態 療養環境

80歳代 男性

アルツハイマー型認知症と診断され数年前から内科医院にて抗認知症薬アリセプトが処方されていた。
認知症の中核症状である物忘れの増悪と尿失禁を繰り返すとの事で内科医より紹介され当院初診となる。慢性気管支炎の合併があり痰の量が多く、所構わず痰を撒き散らす為、家庭でもデイケアでも介護負担が大きかった。前医と同様にアリセプト5mgが継続処方された。

経過

初診2年後。
外来診察にて。表情は乏しく不機嫌。発語も乏しく会話は成立しない。一人で外出し家に戻る事が出来ないなどのエピソードも出現してきた。高度認知症と診断されアリセプト5mgから8mgに増量となった。増量2ヵ月後には表情もしっかりとし、「こんにちは。ありがとう」などの発語がみられた。咳、痰は不変。

初診3年後。
外来診察にて。家庭での活動が低下してきた。診察時はウトウトされている(傾眠傾向)。デイケアでは時々暴言が出る。アリセプトを最大量の10mgに増量して経過観察となった。増量1ヶ月後、咳、痰は続くが、それに加えて唾を所かまわず吐き出すようになる。

初診3年半後。
家の中で「ぺっぺぺっぺ」と唾を吐く。家庭介護は限界にきており当院認知症病棟に入院となる。
アリセプト10mg継続処方された。唾吐きは不変であったが、車椅子に「唾吐き箱」を設置して対応。療養環境やリハビリテーションにより安定して生活できるようになったと判断され3ヶ月間で高齢者介護施設に退院となる。
以後施設嘱託医である著者が主治医となった。

高齢者介護施設入所後。
入所間もなく夜間徘徊・奇声が出現。所かまわず唾を吐く行為も継続。これらの行為は精神興奮状態による(過覚醒)と判断し、抗精神病薬を処方した。
セロクエル25mg 1T / 1日1回夕食後
服薬後しばらくは安定していたが、その後同様の症状再燃。エビリファイ6mgを追加したが無効であった。再びセロクエル単剤とし用量を100mg(1日1回夕食後)に増量した。しかし症状は改善せず施設適応困難となり、当院認知症病棟に再入院となった。

当院再入院後。
これまでの経過より、アリセプトの賦活作用による過覚醒状態を疑いアリセプトを中止した。同時にセロクエルも中止し、不穏時のみ抗精神病薬(リスペリドン液1ml)頓服で対応した。
次第に落ち着き夜間徘徊、奇声、唾吐きなど消失した為、10日間で退院となり再び介護施設に戻られた。

高齢者介護施設にて。
施設でも奇声、唾吐きなどは無い。以前より疎通性が改善し、会話が可能となり施設職員は驚いている。

診療のポイント

アルツハイマー型認知症と診断されると、その中核症状(脳神経細胞の変性脱落による物忘れなどの症状)であれ、周辺症状(幻覚・妄想、拒絶、興奮など精神病様の症状)であれ、その進行を抑制するとしてアリセプトなどの抗認知症薬(⇒参照14)が一律に処方される傾向にある。しかし本症例の様に抗認知症薬が逆に周辺症状を悪化させている例を散見する。このような認知症周辺症状の増悪に際しては、まず抗認知症薬を除去してみる事も必要であろう。また認知症の治療・療養では生活環境が重要なポイントとなる。家庭、施設、認知症病棟など個々に適した療養環境を選択する必要がある。本症例は、初回入院ではアリセプト継続のままで状態が安定し退院に至った。健常者も含め活動的な入所者の多い介護施設より静穏的環境の当院認知症病棟での療養が効果的であったものと思われる。介護施設再入所後、抗精神病薬を併用しても興奮を抑え切れず再入院に至った事からも環境要因が大きいと考えた。

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