外来症例10 さまざまなうつ病(IV) 過重労動による軽症うつ

 

Key word  過重労働 早期発見 早期治療 短期休業

 40歳代 男性

大卒事務系職員。この10年間月平均100時間の残業をしている。最近不眠で食欲がなく、笑顔もみられない。保健師で精神科知識を持つ妻がうつ病を疑い当院初診に至る。

初診時
ほぼ普通に会話は可能であるが、妻と医師が問答している間ご本人はうつむき、沈うつな表情となる。妻によればワーカホリックで休日でも妻に悟られないように早朝家を抜け出し、少なくとも半日は仕事をするとの事。
問診の結果、以前に比べると思考力が鈍り、仕事がさばけないとご本人は感じている。睡眠は熟眠感なく浅い。ご本人から抑うつ気分の訴えはない。

診断・治療方針
うつ病の前駆状態であり、今休養を取り、生活習慣を改めないと本当にうつ病に移行し、長期の休業を強いられるようになると説明した。「少しでも休むとキャリアに影響する」としぶるご本人を今休むことが大事と妻と一緒に説得し、短期間の休養をとる事を了解された。『抑うつ状態であり、10日間の休業加療を要する』との診断書を作成し、安定剤と睡眠剤を処方した。

処方
1)セレナール(10mg)2T  1日2回 朝食後 夕食後
2)スルピリド(100mg)1T  レンドルミン(0.25mg)1T  1日1回 就寝前

以後処方変更なし。

治療経過
1週間後
十分休養した。こんなに休むのは久しぶり。ほぼ病前の状態になったと言う。
ライフスタイルの改善点についてアドバイスしておく。

その後予定通り、10日間の休業で復職された。

3週間後
医師:調子はどうです?>ご本人:頭の働きは大丈夫です。次々仕事が来るので焦りがあります。
休日は>やはり出勤してしまいます。性分かなと思います。
運動は>ジョギングを週末にしています。
残業は>9時には止めるようにしています。夕方甘いものを食べます。食欲も出てきました

50日後
如何ですか>大丈夫です。最近は良いです。
残業は>最近はまた遅くまでしています。来週から長期研修に行くので周囲に迷惑をかけてはいけないと思いまして。
頭の働きは>思うように出来ないとあせりが出て、自分を責めてしまいます。

3ヶ月後
どうですか>長期研修から帰って翌日から仕事をしました。
頭の働きは>研修から本来の仕事に戻って、ちょっと仕事に慣れなくて戸惑います。
休みは取っていますか?>一応取っています。

5ヶ月後
薬がなくなったと受診。調子がよかったため自分で調節して服薬していたとの事。
頭の働きは>一応対応は出来ていると思います。
眠りは>熟眠感がありません。それと寝汗を掻きます。
残業は>どうしても土曜日か日曜日に半日は仕事に出てしまいます。

6ヶ月後
2週間前に部署変えになって負担が減り、随分楽になった。仕事が計画的に出来るので休日出勤はしていない。寝汗も掻かない。
服薬は全くしていないが、自然に夜8~9時には眠気が来る。それでうつらうつらして11時に入床し、グッスリ眠れると言う。

不眠が解消し、表情からも活力の充実が認められた。治癒と判定し治療終結とした。

診療のポイント
笠原 嘉(かさはら よみし;前名古屋大学精神科教授)によれば軽症うつとは「第三者に分からない程度」の症状と規定されている。
この症例の場合、職場では症状は顕在化しなかったものの、妻が「不眠、食欲低下、笑顔が少ない」などの軽微な症状からうつ病を疑い受診に結び付けた事が、うつ病の発症・重症化を防ぎ、早期治癒に至った。本人の異変を近親者が早期に気づき受診を促す事が、うつ病を重症化させないポイントと言えよう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です