入院症例10 さまざまなうつ病(Ⅲ) 引きこもりうつ

 

Key word 単身生活 引きこもり 未治療状態 人間不信 総合的リハビリテイション

40歳代男性

大卒事務系職員。単身生活。7年前骨折休業をきっかけにうつ病となり薬物治療を受けた。数ヶ月の休職期間を含めて2年間治療し、治療終了となった。

2年前転勤となり対人業務が増えうつ再発し、薬物治療開始した。1年前から休職している。再度、某年某日転勤となり転院し当院初診。休職中の状況を心配した上司が電話を入れたり、何度も訪問したが、本人は上司との接触を避け、ひきこもり状態を続けていた。

当院初診4ケ月後、上司同伴受診。初診以後2回しか受診がない事を上司に告げると上司は驚愕される。不規則通院で外来では治療困難な為入院加療を勧めると、母親と相談すると言われる。上司も自分の闘病体験を踏まえ、熱心に入院を勧められる。

前回受診の10日後上司同伴で受診。母親と相談し入院する事にしたと言われる。しかし当日入院の決心がつかず翌日改めて入院の為に来院される事となった。

治療経過
入院初日
一旦朝来院されたが、受診受付をしないまま外出されてしまった。

以下は、その後診察室での主治医とご本人の問答。
主治医:朝早く病院に来れられていたようですが、今までどうしておられましたか?
>ご本人:車でそこらを回っていた。
どうして?>重い感じ。
さっきは院外方向に歩いて出かけておられましたけど?>別に。
入院して治療する気持ちになられましたか?>気持ちは。
気持ちにはなったけど実際は入院したくない?>いや~。

「入院しようと決心されたのか、そうではないのか」「朝早く来院され、受付もせずそこらを車で回る事の真意は何なのか」何とも捉えどころのない応対をされる。
しかし最終的には入院に同意され急性期治療病棟の開放サイドに任意入院となる。

抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬を処方した。
1)リボトリール 0.5mg   2T / 1日2回 朝食後・夕食後
2)パキシル 20mg 1T   ハルシオン 0.25mg 1T / 1日1回 就寝前
以後入院中に処方変更は行っていない。

入院後オリエンテーションの為、看護師が病室を訪問するとご本人不在。病院周辺を探したところ、外来駐車の自分の車内にいるのを発見。ナースの問いかけにどうしたら良いか分からないと言い、混乱がみられる。この為、ご本人の安全確保のため閉鎖サイドに病室変更とした(⇒参照13)。

入院2日目
どうですか?>落ち着きました。
どんな心境でしたか?>恐かったです。
具体的には?>精神科に入ると云う事が・・
どうして上司の方との連絡を拒絶されていたの?>恐かった。
友人はいないのですか?>一人います。以前の職場で一緒だった人です。
対人関係が苦手ですか?>うつになってからですね~。

SST(⇒参照7)を勧め、翌日から参加される。

入院7日目
落ち着かれ、不安・恐怖による離院の心配もなくなった為、開放サイドに病室変更。
どうです?>落ち着きました。
気分は沈みますか?>今は普通です。
家では薬もほとんど飲んでなかった?>はい。
受診できなかったのは投げやり、それとも体が動かなかったから?>体が動かん。
眠りは?>薬で大丈夫です。

病状安定したように見えたが、入院14日目と16日目に車で県外まで無断離院し、パーキングでそれぞれ1泊するなど不可解な行動が見られる。

入院21日目
この前は遠くまで行かれましたね?>はい。皆さんとコミュニケーションが取りにくいのと、気分を変えたいと思って
何をしていたの?>パーキングで寝ていた。
薬を飲まなくてどうでした?>眠れなかった。
(病院に戻ってきて数日経ちますが)今はどうですか?>今は眠れます。
気分はどうですか?>大変な事をしたと思って。病院に入る決心がつかなかった。

外出は許可するので、必ず届けてから外出されるように伝える。

入院30日目より柔道療法(⇒参照8)に参加。

入院35日目
どうですか?>良いです。秋っぽさを感じます。
昼間は何をしておられます?>歩いたり、スーパーに行ったりしています。
柔道はどうされますか?>週1回でお願いします。
元気だった時の状態を100%とすると今は何%位ですか?>70~80%位です。

入院44日目
どうですか?>(柔道で)足に筋肉痛あります。柔道が終わると高揚感がある。
気分は晴れますか?>今のところ。

不安表情は消え、おだやかな表情となり、疎通性が改善。

以後順調に回復し、入院70日目で退院となり、1ヶ月間デイケア通所し、職場の復職プログラム導入予定となる。
以下は、退院時に作業療法士がまとめた、リハビリ評価である。

入院直後よりSSTに参加。入院1ヶ月間は活動への参加は積極的ではなかったが、以後SSTや退院準備プログラムに積極的に参加された。午前中に規則的に外出されるなど、病棟での生活リズムも整ってきている。SSTでは退院への思いや、現在感じている事など、自分の素直な思いを表出できている。今後SSTの場がスキルアップや本人受容の場として活用できるように支援して行きます。

退院後の診察で「入院治療で何が良かったか」との問いに対して「規則正しい生活。病棟の人々やSSTによるコミュニケーション。柔道で学んだ力の抜き方、今までは力が入り過ぎていた」と返答される。

退院後3ヶ月間デイケアと復職プログラムを併用し、復職された。外来受診時、前主治医への不満を口にされるようになり、医療不信・人間不信が形成された事が推察された。その後多忙な職場に配置転換となったが、残業への対処も様々工夫、規則的に通院服薬され退院後1年3ヶ月が経過している。

診療のポイント
再発うつ。独身で1年間の休職による孤立により、上司の熱意のある働きかけに対しても、謂れなき恐怖感から拒絶。それは、うつ症状としての不安、長期休職による孤立、闘病生活による人間不信などの複合要因により生じたのであろう。入院後もしばらくは疎通性不良で、不可解な理由で離院したり、捉えどころのない言動がみられた。しかし入院による規則的な薬物療法と、本人の感想にもあるような総合的リハビリテイションにより、うつ症状と人間不信が改善し、復職に至った。
単身生活者のうつ病の場合、思考制止の為、体が動かなかったり、治療意欲が湧かなかったりして受診できず、未治療での引きこもり状態が続く場合があるので、薬物療法のみならず生活全般に対する配慮が必要である。

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