入院症例9 さまざまなうつ病(I) 拒絶の強いうつ

 

Key word リスペリドン液 ジプレキサ アナフラニール点滴 過覚醒

60歳代女性

3年前まで正規雇用で就労していたが、現在は月に数回のパート勤務。夫は他界している。1年前子供がうつ病を発症した。心配のあまり自身も気分の落ち込みがひどくなり半年前当院を受診しうつ病と診断された。薬物療法(スルピリド、リボトリール、レンドルミン)により3ヶ月で軽快、その後3ヶ月間治療を中断していた。3週間前から朝起きられない、次第に口数が減ったと再受診に至る。息子によれば、うつ病の為、生命保険の切り替えが上手く行かなかったのが誘引かもしれないとの事であった。

外来受診時
問いかけに対し、ボソボソと小声で極めてゆっくりと返答される。その様態は思考制止(※1)というよりも、思考阻害(※2)に近い応答であり、うつ病特有の沈うつな表情とは違い、統合失調症様の冷たく硬い表情が印象的であった。
※1 思考制止=思考がゆっくり:うつ病でみられる
※2 思考阻害=思考が途切れる:統合失調症でみられる

前回スルピリドが有効であったことを踏まえ、同薬に抗うつ薬パキシルも加え、以下の内容で14日分処方した。
スルピリド(100) 1T
パキシル (10)  1T
デパス  (0.5) 1T / 1日1回 夕食後

治療経過
6日後(入院日)
「食事もしないし、薬も飲まず悪化した」と息子に連れられ受診。表情硬く、発語はほとんどなく拒絶的であり、入院を勧めるも「息子に食事を作らないとやれん」と言うのみであった。外来治療は困難な状態であるが入院に対する同意が得られない為、急性期病棟に医療保護入院とした。

病室に入室後「帰らせて下さい」「息子に悪い事をした。ご飯を作ってやらなかった」と訴え興奮状態となる。この為、リスペリドン液3mlを処方し看護者に口腔内に注入させたが、一部吐き出すも嚥下する。拒薬傾向がある為確実な薬物療法と速やかな改善を期待しアナフラニール25mg1Aを点滴処方したが、興奮あり体動激しく危険な為、四肢固定しての点滴となった。
夕方訪室すると多少表情和らいでいる。主治医が再度リスペリドン液3ml服用を勧めるも拒薬する為、口腔に注入すると今度は吐く事なく自力で嚥下する。

入院翌日
「自分のせいで浜田城が大変な事になっている」など、妄想あるも、朝食全量摂取し、時に笑顔も出る。(看護記録より)
診察時は「私の事で息子達に迷惑をかけてしまった」「今は頭の中が真っ白になっている」と訴え、自責的で過覚醒状態である事が伺えた。
アナフラニール50mgに増量し点滴を行う(計10日間行った)。この日より四肢の固定の必要は無かった。
内服処方開始
ルボックス(50)  2T
リボトリール(1) 2T / 1日2回 朝・夕(食後)
ジプレキサ(5)  1T / 1日1回 夕食後
同夜はレンドルミンを服用し、11時半頃に入眠、翌朝6時に覚醒する。

10日目
順調に回復され、アナフラニール点滴中止に伴い抗うつ剤内服の増量を行う。
ルボックス(50) 3T
リボトリール(1) 3T / 1日3回 毎食後
ジプレキサ(5) 1T / 1日1回 夕食後

30日目
ふらつきを訴え、妄想は消失している為ジプレキサをレボトミン25mgに置換。

32日目
眠気あるため、レボトミンを10mgに減量した。

36日目
ほぼ病前の状態に回復し退院に至る。

以後外来通院で病前の状態となり家事をこなしているが、眠気を訴える為レボトミンは漸減し、退院43日目にはレボトミンは除去しベンザリン10mgと置換した。

診療のポイント
半年前うつ病を発症し、マイルドな抗うつ薬(スルピリド)で短期間に軽快断薬されたが、3ヵ月後に再発し、強い拒絶・妄想を呈する重度うつ状態を呈し医療保護入院に至った。初期に強力な抗精神病薬(リスペリドン液、ジプレキサ)を使用する事で早期に拒絶が取れ、疎通性改善しソフトな介入が可能となった。このような精神病様症状を伴う過覚醒状態のうつ病(⇒参照12)では、強力な抗精神病薬の初期使用がポイントであるが、覚醒水準の低下(眠気の訴え)に対応して減薬・中断する必要がある。またアナフラニールの点滴はこのような重度うつ病の治療期間を短縮し、早期社会復帰に有用である。

入院症例9 さまざまなうつ病(I) 拒絶の強いうつ への16件のフィードバック

  1. M.S のコメント:

    はじめまして、Sと申します。
    ここ数週間、家庭環境が著しく悪く以前より明らかに自分が笑うことが減っていると感じています。月経周期的に不安定になりやすい時期ではあるのですが、家族と話すことも億劫と感じる時もあり、ここ数日は消えてしまいたいとそればかり考えてしまうことがしばしばあり、そんなことを考える自分に戸惑ってしまいます。
    最近は入眠後1時間おきなどに目が覚め、その都度また眠れるのですが細切れの睡眠から午後に寝てしまうことが多いです。
    心療内科または精神科にかかろうかと思っているのですが、どちらの方が今の私に適した科になりますでしょうか?
    お返事をいただけると幸いに存じます。

    • 西川 正 のコメント:

      基本的には精神科ですが、心療内科を標榜しておられるクリニックも精神科医が診療されている場合がほとんどですので、いずれの科を受診されても良いと思います。

  2. 中○ あ○こ のコメント:

    こんにちわ。私は歯の治療中には家でパニック障害になりました。原因は歯並びがあってないんじゃないか?と考え始めたら息が苦しくなりました。家族や歯医者に伝えても見た目も大丈夫だしあっているからと…毎日毎日歯のことばかり考え笑顔も消えていきそうです。うつ病でしょうか?
    気を許すとまたパニック障になりそうでこわいです。

    • 西川 正 のコメント:

      不安障害又はパニック障害と思います。精神科か心療内科クリニックを受診されたら如何でしょうか。

  3. ○井○介 のコメント:

    はじめまして。
    私はうつ状態のひどい時、アナフラニール点滴をすると、2〜3日で元の状態に戻ります。主治医は心臓に負担がかからないようにと0.5Aから始めます。1Aから始めても心臓に負担がかからないのでしょうか?また、1Aからの方が当然効きは良いのでしょうか?
    ご教授ください

    • 西川 正 のコメント:

      当院ではメーカーが推奨するように生理的食塩水又は5%ぶどう糖500mlにアナフラニール1Aを混入し2-3時間で点滴静注しています。この点滴速度では問題となるような副作用が認められる事はありません。0.5Aより1Aの方が有効性は高いとは思いますが、〇井〇介さんの場合は僅か2~3日で元の状態に戻られるのであれば、現在の主治医の方法で支障はないと思います。

  4. S.Y のコメント:

    初めまして、愛知県のSと申します。
    今年6/29に妻(50)が統合失調症の再発で入院しました。本人の病状の一つに「自分は病気でないから薬を飲まない。」という事がありまして、薬を服用しないことも結構あるみたいです。(リスペリドン・インヴェガ 計9ミリ)  13年前に初めて入院した時は最初注射をうち、徐々に良くなり、4月で退院しました。今回は6/29入院時点よりも症状が悪くなっている状況でして、全く先が見えません。9/10に医師が12ミリへ増薬を試みたのですが、本人は薬の量が増えたと言って服用拒否。仕方なく9ミリに戻したとのことです。持続性注射を医師にお願いしているのですが、外来しか打たないと言われて、使用してもらえません。妻を救う方法はないのでしょうか?

    • 西川 正 のコメント:

      リスペリドンなど非定型抗精神病薬の持続性注射は極めて高価であり、療養病棟など包括病棟では使いづらいのだと思います。13年前の注射が効いたとの事ですが、当時持続注射はハロマンス、フルデカシンなどであり、薬価は安く、現在でも使用されているので、過去の治療歴を話して、ハロマンスなど使用して貰われては如何でしょうか。

  5. みちみち のコメント:

    昨年10月より母(60歳)が精神疾患を患いました。きっかけは父の金銭問題です。
    最初の診断は適応障害(落ち着きのなさ、不安が高く付きまといが激しい)だったのですが、その後被害妄想が出てきて(自分が窃盗犯だと思われてる、みんなが自分を見てる気がするなど)、その後年末に悪化(今までの妄想に加えTVの内容が自分に言ってると思う、何かに操られてる気がするなどの妄想と家族への執拗な付きまとい)。1月半ばから統合失調症との診断で入院。現在も入院中です。
    入院当初はセロクエルを服薬していましたが、気分の落ち込みが激しいとのことで、抗うつ薬の処方に移行していきました(妄想症状も落ち着いていたからだと思います)。
    現在はジェイゾロフトのみの処方で6月は状態が回復し表情も戻っていたのですが、7月に入ってからまた以前の様な被害妄想が始まっています(きっかけは同室の物盗られ妄想の様で今は別室)。
    今日看護師さんに聞いたところジェイゾロフトの量を増やした(今までは75mg)との事で見立てとしてもうつ病との事でした。
    妄想がある為統合失調症としての投薬は無くてよいのかと疑問に思っています。
    主治医にも聞こうと思っていますが、他の先生のご意見を聞きたくてコメント致したました。
    よければお返事頂けたらと思います。
    長文すみませんでした。

    • 西川 正 のコメント:

      妄想を伴ううつ病は抑うつ妄想状態と呼び、この症例にもあるように抗精神病薬を併用しないと、改善は困難と思います。妄想消褪後は減量・中止する必要がありますが、中止は困難でごく少量の抗精神病薬の併用を続ける必要もある症例も存在します。

  6. マメルリハ@ のコメント:

    初めまして、高齢うつで調べていましたら、先生のところにたどり着きました。
    74歳の母ですが、4月終わり頃から食事が減り、5月には人前に出るのも何をするのもイヤになってきました。
    内科で睡眠薬と安定剤をもらって様子をみてましたが、6月には、喉の違和感、咽せ咳き込みや血圧低下、表情もなくなってきてました。(胃カメラ、ファイバースコープ、CT、嚥下評価簡易検査は異常無し)
    水分、減りましたが食事もしてくれてはいます。食事がとまってる感じごする。息できてるかと夜間になると眠れないようですが、側にいてあげると落ち着いて少しすると眠りにつきます。
    来週、神経内科を紹介され受診します。
    たぶん、経済的に不安が大きいと思います。私も働けていないので、たぶん神経内科への金額も心配してると思います。
    私自身、どう対応してあげるのかいいのでしょうか。また公的な医療費の支援はありますか。

    • 西川 正 のコメント:

      症状からは担当診療科は精神科と思われますが、内科医からの紹介された神経内科であれば、神経内科を標榜されている精神科医なのでしょうか?

      公的な医療費支援は70歳以上であれば、健康保険高齢者医療費が適用されるだけで、それ以外で生活困窮があるならば、生活保護申請しか経済的支援はないと思います。

  7. K.N のコメント:

    私は介護の仕事をしてもう少しで一年になります。最近首が痛くて整形外科で観てもらいました。二軒の病院ではリハビリすれば大丈夫との診断でした。少し頭が痛くて三軒目の病院に受診しました。MRIの結果頚椎症と診断を受けました
    。その病院でもうひとつの病になる可能性を告げられました。うつ病です。自分では関係ないと思っていました。今後の不安もありましたが、これからはこのうつ病に負けないように日々の生活習慣から見直さなければならないと強く感じました。

    • 西川 正 のコメント:

      うつ病の身体症状として「頭痛」はあり得ますが、MRIで器質的病変を指摘された上で、うつ病の可能性を告げられるのは「ちょっと解せない」と思います。うつ病の身体症状はあくまでも、「うつ症状」を基盤に発現するものですから。

  8. 薬学生 のコメント:

    はじめまして。薬学五年目の者です。
    拒絶状態を認め、うつ病・うつ状態について、少し調査のために来させて頂きました。(学校のある科目の授業の復習もかねていますが。)
    うつ病は早めに医療関係者の介入によって、早期の治療が可能になるものの、家族や周りの方の理解が乏しいことで、悪化させることに繋がるとも考えられます。
    今後実習において、精神疾患領域の薬を使用することが多くなると思いますので、
    患者さんがどうしたら早く社会復帰ができるか、患者さんが実際どうしていきたいのかも含めて、薬剤師になる一段階前の段階で、考えていく機会であると考えてやっていきたいと思います。苦手意識のある領域ですので、苦戦しそうなのは目に見えていますけど…。

    • 西川 正 のコメント:

      うつ病の病態は多様であり、精神科に於いてさえ適切な薬物療法が行われているとは言い難い現状です。しっかり勉強されて医師にアドバイスできる薬剤師(当院の薬剤師は医師に適切なアドバイスを行っています)を目指して下さい。

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