入院症例7 うつ病として紹介された神経性食思不振症

Key word  結婚と母子葛藤 心因性ショック 点滴 イントラリポス

50歳代女性

夫とは死別。女手一つで育てた娘が結婚する事になった。娘が結婚する時には親として充分な支度をしてやりたいと常々思い準備もしてきたが、当人たちから極力簡素な結婚準備にして欲しいと申し出があった。自立し、親に迷惑をかけないためという心遣いであることは頭では充分理解できたが、気持ちの上では長年自分の支えであった夢が消えたと感じた。そのショックからか嘔吐、下痢など生じ、2ヶ月前から心療内科を受診するようになった。10日前に挙式が終了。翌日から食欲が極端に低下。心療内科や内科医院、総合病院などで連日点滴を受けているが、この数日ほとんど食べられない状態が続き、ご本人自ら入院を希望され紹介受診に至る。

初診時
元々痩せていた(39kg, BMI:17)がこの10日間で体重がさらに4kg減少した。心療内科では抗うつ薬中心の処方と栄養補助剤としてエンシュアリキッドが処方されていた。
娘の結婚までの経緯を涙ながらにも、しっかりした口調で語られた。結婚式前後は仕事も多忙で疲労もピークに達していた。結婚式が終わった途端、緊張の糸がぷつんと切れたと思うと話される。

診断・治療
抑うつ気分、思考抑制はほとんど認めず、心因性ショックにより生じた神経性食思不振症と診断。個室開放療養病棟に入院とした。
抗うつ薬は中止し、以下の処方とした。
1) セレナール(10)2T / 1日2回 朝・夕
2) スルピリド(100)1T  レンドルミン(0.25)1T / 就寝前
これまでの経過から、電解質や糖質の通常の点滴は奏功しておらず、激やせの消耗状態であるため20%イントラリポス100mlの点滴を行った(5日間)
食事は普通食とし、主食は粥とした。

経過
入院初日
午前中の入院であったが、外来で「思いの丈」を話され安心されたのか、「昼食は半分食べた」「食べやすかった」「入院が決まったら息が楽に出来るようになった」と夕方訪室時に話される。
3日目
順調に食事量増加し、粥全量摂取可能となる。
5日目
主食を粥から米飯に変更した。普通食全量摂取される。

以後順調に回復され、2kg体重増加した。

12日目
調子いい、すっかり元気になりました。と話される。
主治医:ショックから立ち直りましたか? > ご本人:はい。前向きに考えます。

以上のような話をされ、12日間の入院で退院となる。

退院14日後
「元の生活に戻りつつある」「仕事は退院後1週間は短時間勤務、以後は通常勤務をしている」「元気になったので薬を2日間止めてみたが、中途覚醒するので飲もうと思う」
「ご飯もしっかり食べている」など話された。

診療のポイント
発症し心療内科受診を開始して2ヶ月が経過。食思不振により外来での点滴開始から10日間。全く改善傾向の認められなかった食思不振症が入院当日から改善傾向が認められ、20日間でほぼ病前の状態にまで改善に至った。
本症例の診療のポイントは何であったろうか。
まず1)食思不振をうつの症状としてではなく、娘の結婚までの葛藤から生じた心因性ショックによる神経性食思不振症と診断し、それに対する精神療法と薬物療法を行った事。2)入院による安心感の確保と適切な食事の提供。3)脂肪乳剤イントラリポス(⇒参照9)の点滴。の3点であったと考える。イントラリポス点滴による、このような心因性食思不振に対する食欲増進「呼び水効果」を時々実感している。

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