入院症例30 誤った治療戦略により難治化した双極性障害の遅発性ジスキネジア

Key word エビリファイ メージュ症候群 ボツリヌストキシン グラマリール

50歳代 男性

大学卒業後両親の経営する小売業の手伝いをしていたが、26歳時うつ病を発症。地元の精神科に2週間入院。その後躁うつの病相あり、2回の入院歴がある。42歳以降、軽躁エピソードはない。43歳時エビリファイの服用を開始したが、4ケ月後、眼瞼けいれん(メージュ症候群)発症。同薬中止したが改善せず、ボツリヌストキシン治療により消失した。46歳時エビリファイ6mgより再開。その後同薬3mgに減薬。48歳時遅発性ジスキネジアが出現した為同薬を中止し、ジスキネジアの治療としてグラマリール(25mg)3錠が処方された。同時に神経内科を受診し、タスモリン、ラミクタール、ガバペンなどが処方されたが無効であった。食事も困難であり、当ブログを見られ、遠隔地より受診入院された。

初診時
単身で来院。
最近ブロナンセリン処方され辛かったと訴えられる。

持参薬より、
遅発性ジスキネジア惹起可能薬
:グラマリール200mg、ブロナンセリン4mg (1日量)
が疑われた。
治療薬として、リボトリール0.5mgが処方されていた。

診断
眼瞼痙攣、口舌ジスキネジア共に認められ、Meige dystonia(メージュ症候群)と診断した。

著者の推奨する遅発性錐体外路症状の治療薬及び双極性障害の治療薬を以下処方した。
1)(1日量)
リボトリール(1mg)2錠
バレリン(200mg) 4錠   1日2回 朝・夕食後
2)
レメロン(30mg)  1錠
ニトラゼパム(10mg)1錠  1日1回 就寝前

経過治療
入院翌日
「すっかり楽になりました」
食事も全部食べた。
構音障害も消失している。

不眠を訴えられる為、ロゼレムを追加処方した。

入院6日目
持参の高血圧治療薬を除去して血圧測定を行っていたが、高血圧認められる為、高血圧治療薬でジスキネジアの治療薬でもあるカタプレスを追加処方した。

1)(1日量)
リボトリール(1mg)2錠
バレリン(200mg) 4錠 
カタプレス(0.075mg) 2錠  1日2回 朝・夕食後
2)
レメロン(30mg)  1錠
ニトラゼパム(10mg)1錠 
ロゼレム(8mg) 1錠  1日1回 就寝前

以後処方変更は行わず、メージュ症候群、躁うつ病相、高血圧症をモニターしたが何れも安定した状態を示され、メージュ症候群は日常生活に支障のないレベルまで改善した。

入院後1ヶ月
本人の言によると入院時を100%症状ありとすると、20%まで改善して入院1ヶ月間で退院に至った。

診療のポイント
軽躁を伴う双極II型の治療においては、抗精神病薬を継続して使用する必要はない。バレリンなどの気分安定薬を主剤に、軽躁の病相が出現時のみ、錐体外路症状惹起作用の少ない、クエチアピンやレボメプロマジンの少量で対応すれば十分であろう。さらに本症例ではグラマリールが大量に遅発性錐体外路症状の治療薬として長期間使用された。以前は最も遅発性錐体外路惹起作用の強いハロペリドールが遅発性ジスキネジアの治療薬となると報告された事があるが、同薬の抑制効果は一過性であり、その後は増悪する事が知られている。前主治医が遅発性錐体外路症状の治療薬としてグラマリールを処方された事は同症状の病態生理に対する理解に乏しいと言わざるを得ない。双極性障害と遅発性ジスキネジアに関して正しい病態生理に基づいた適切な薬物療法が行われる事が診療のポイントであろう。

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