外来症例23 伝票操作が突然不能となり受診した高齢患者のパニック状態

Key word 高齢者 長谷川式知能スケール正常範囲 抗不安薬 スルピリド

 

80歳代女性

夫は13年前に他界し、息子と二人暮らし。
20代で結婚し、以後家業の事務を担い現在も従事している。2週間前に急に伝票の書き方が分からなくなった。それ以来不眠となり当院受診に至る。

初診時
医師:何かストレスがありましたか?>ご本人:別にありません。
眠れませんか?>寝つきが悪い。それに3時に目が覚めて以後眠れません。
今も伝票の書き方が分かりませんか?>多少は回復しました。呆けたのではないかと思います。
職場には行くけれど、また間違えたらどうしょうと思うと不安になると話される。

不安様顔貌をされている。

CT:脳萎縮はごく軽度で年相応。
長谷川式知能スケール 23/30点(正常範囲)

診断:
伝票操作につまずき、パニック状態から、不眠・不安緊張状態に陥ったと診断した。

治療
「高齢になると脳機能の低下から物事の処理能力が落ち、何かにつまずくとパニッック状態になる。作業はゆっくりしたペースで行う事が肝心。認知症ではない」と説明した。また、「仕事は続けられるように」とアドバイスし、以下の処方をした。

処方
Rp1
  セレナール(10mg)2錠 (抗不安薬)
      1日2回 朝・夕(食後)  (1回1錠)
Rp2
  スルピリド (100mg)1錠 (抗うつ薬)
  ブロチゾラム(0.25mg)1錠 (睡眠導入剤)
1日1回 就寝前

経過
1週間後
気分も良いし、頭も良くなったような気がする。料理も積極的にするようになった。今日から事務仕事を始めようと思っていると話される。

3週間後
順調です。おしゃべりも普通に出来るし、仕事もぼちぼちしていると話される。

6週間後
息子より電話相談あり、日中の眠気が強く、職場でもコックリコックリしている。本人も午前中に眠気があると言い、車の運転が心配と話される。

ブロチゾラムを0.5 錠に減量、それでも眠気が強ければスルピリドも半分にされるようにアドバイスした。
2剤とも半量にされ、以後は眠気少なく、居眠りも減ったとのことであった。

3ヶ月後
ぼちぼち仕事をしている。忙しい時だけ、考えながら仕事をやっている。
眠気の方は大丈夫ですか?>はい。眠気はありません。良く眠れるし、朝5時にはちゃんと起きています。

診療のポイント
高齢者で脳機能が低下すると、些細なつまずきから容易にパニック状態となり、「自分は呆けた。つまらん人間になった」と思い込み、自尊感情が低下する。
このような患者に遭遇した場合は、決して認知症による症状ではなくパニックによる症状であると説明し、作業はゆっくりしたペースで行う事が肝心と説明する事が大切である。抗認知症薬による脳機能の活性化を図るべきではなく、不安や過覚醒性不眠の治療を抗不安薬やスルピリド、エビリファイなどのドパミン作動系薬物を使用し、鎮静的に治療する事がポイントである。

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