入院症例23 長期間引き篭もりを続けた高機能自閉症の治療

Key word 長期未治療 破壊行動出現 入院加療 薬物療法

30歳代 男性

【発育歴】
発語が遅れ、3歳位から発語するようになった。身体発達は普通。

4歳時
1年間保育園に通う。保育園に行きたがらない。朝起きた時から泣く。他の子供に比べ行動が遅く、学芸会ではモジモジ状態。砂が手につくのを極端に嫌がった。プールが嫌いで、顔に水がかかるのを嫌がった。鳥のぬいぐるみを常に持って放さなかった。

5歳・6歳時
幼稚園に2年間通う。
着替えに時間が掛かっていた。
入浴時タオルにこだわり、自分の気に入りのタオルがないと入浴できなかった。
衣服は1回でも着たら、必ず洗濯機に入れることにこだわった。
偏食があり、野菜は全くだめだった。
動物も苦手で相手にしなかった。

小学校時代(普通学級)
作文が書けない。絵が描けない。
家でTVゲームをして過ごす事が多かった。
学校から帰っても、学校での事を母親に話す事はなかった。
小学5年までは親と一緒に入浴していたが、頭や体を洗う事を嫌がった。
高学年になるにつれて、人前で下を向く事が多くなった。
人に対する関心がないような感じだった。

中学校時代(普通学級)
中学2年夏までは卓球部に所属していたが、ただ居るだけという存在。
人を避けるようになった。
国語、英語が苦手だった。

高校時代
1年時、授業中トイレに行く事が出来ず、その場で失禁する。
そのため担任が心配し脳神経小児科受診に至る。

受診時、場面沈黙強く、診察でも、家庭でもまったく声を出さない。
高機能自閉症、場面沈黙と診断された。
服薬は本人拒否の為行ってない。

登校は母親が教室の席まで送って行った。
帰りは一目散に家に帰っていた。
教室外の授業は、周囲の生徒が誘導して連れて行っていた。
体育祭では、競技に参加できず、一日中テントの傍に立っていた。誘導しても動かない。
昼食は教室の自分の席でパンを食べ、その場から動く事はなかった。
学校でも口を利かないので対応に苦慮していたが、数学だけは成績が良かった。

高校卒業後
一般就労は困難な為、在学中に体験実習をした知的障がい者施設で神楽衣装の製作に従事することとなった。
公共交通機関の利用も困難な為、送迎は母親が行っていた。
朝入浴する為、10時半に出勤していたが、次第に出勤時間が遅くなり午後3時に出勤することも度々あった。

入院4年前
通所困難となり、家から一歩も出る事なく自宅に篭もっていたが、神楽衣装製作は継続していた。言葉が出ない。視線を合わせない。唯一会話をする母親とも単語のやり取りをする程度。両親に全面的に依存した生活を送っていた。
主治医(筆者)往診にて年金診断書を作成した。

その後毎年1回、PSW同伴で往診し様子を伺っていた。次第に主治医に慣れ、表情も良くなり、主治医の体を手指でツツクなど親愛の情らしき仕草を見せるようになっていった。

【入院に至る経緯】
入院4日前
家でドンドン壁を叩いたり、フライパンで電気コンロを叩き割る。急に自分の頭髪を引っ張ったり、突発的な興奮がある為、両親、支援スタッフなど同伴で受診。入院となる。

入院治療経過
入院日
急性期治療病棟閉鎖サイドに医療保護入院。
独歩で穏やかに入室。主治医が看護師同伴で訪室するとベッドに腰掛けている。エビリファイ3mg1錠を看護師から手渡して服用を促すが、体を捻り後ろ向きとなり拒否する。
内服での治療不能と判断し、ハロマンス(50mg)1Aを筋注した。

看護師には、エビリファイ内服を根気よく勧めるように指示した。

翌日
拒絶状態続く。
しかし、「拒絶の程度は減少している」と担当看護師は評価した。

3日目
拒食・拒薬続く。
主治医:早く帰りたい?> 患者:(うなずく)
入院に至った理由を説明し、「食事・服薬をして早く退院しよう」と話す。

病院食に慣れさせるため、間食などの差し入れはせず、給食のデザートなど傷まないものはすぐに下膳しないでしばらく部屋に残して摂食の様子を観察するように看護師に指示した。

4日目
朝 看護師に促されて服薬する。
拒食するが、水は飲む。

以後、拒薬なく服薬継続する。

5日目
拒食が続くため、母親に昼食だけ差し入して貰うように依頼した。
同日、差し入れの食事を摂取する。
病院食の主食をパンに変更。

以後、主食はほぼ全量摂取するようになる。

8日目
看護師同伴で、入院時検査(胸部レントゲン・心電図検査)のため病棟外へ。その帰途、院内売店に寄りペットボトルなど自分で購入しサインする。
午後 母の面会があり、「ゲームと耳栓持って来て。いつ退院できる?」と入院後初めての発語あり。

9日目
朝 主治医が病室訪問すると布団を被り寝ている。
呼びかけるとベッド上に起きる。
売店で何でも買って食べて良いと伝える。
何か変な声が聞こえていたのかと問うと「うなづく」。

幻聴など精神病性の症状に基づく不安感により、破壊、自傷行動を起こしたものと推察した。

11日目
ナースステーションの前をウロウロ行ったり来たりする。
看護師が「どうしましたか?」と尋ねても返答しない為、「口に出して言わないと分かりませんよ」と返答を促すと、「外を歩きたい」と発語あり。
看護師同伴で近くの海岸まで散歩に出掛ける。
散歩の帰りに病院体育館に寄ると、卓球台を見つめるため、卓球に誘うと応じた。

12日目
拒絶は消失し、疎通性が改善した為、神楽の刺繍道具を病院に持参して貰い、リハビリテーションの一つとして取り組んでもらうことにした。

13日目
自発的にスタッフに話しかけたり、散歩や売店に行きたいと要望を口にすることができた。
同日夜 廊下をウロウロ徘徊する。当直医は、アカシジア(⇒参照21)と診断し、アキネトン筋注施行。症状は改善した。
その後数日間、しばしばアカシジアが出現し、患者自らアキネトン筋注を希望して看護師に訴えて来た。

16日目
アカシジアが持続するため、セドリーナを追加処方した。
処方
エビリファイ3mg 1錠 1日2回 夕食後
セドリーナ(2mg)2錠 1日2回 朝・夕食後 (1回1錠)

22日目  診察場面
主治医の正面に座る。
表情明るく、視線を合わせることが出来る。
食事をしっかり食べるように言うと、うなづく。
発語はないものの、疎通は著明改善している。

25日目
両親と面接
主治医より「穏やかに入院生活を送る事が出来、対人接触性は劇的に改善した」と報告。

今後の方針として、以下3点について 両親に協力を求め、了解を得た。

  • 病院から家まで徒歩で外出する(15分程度)
  • スーパーマーケットに一人で買い物に行けるように導く
  • 単身で生活できるスキルを身に付けさせる

38日目 診察場面
主治医:足がムズムズしたり、じっとして居れずに歩き回る(=アカシジア)のは、どうですか?
>患者:良くなりました
初めて主治医に言語的返答をした。

以後外泊時も情動は安定しており、その後も順調に経過し、スーパーマーケットに一人で買い物にも行けるようになった。

薬物療法
抗精神病薬に関してはアカシジアとの関連で、エビリファイ1.5mgから6mgまで増減したが、1.5mgでは疎通不良となり、6mgではアカシジア出現する為、最終処方(入院71日目)は以下とした。。

エビリファイ(3mg)1T (抗精神病薬)
レクサプロ(10mg) 1T (抗うつ薬:こだわり改善目的)
リボトリール(1mg)1T (自律神経発作治療薬:不安改善目的)
セドリーナ(2mg) 1T  (抗パーキンソン薬:アカシジア改善目的)
1日1回 朝食後

入院79日目 ケア会議
退院後のスケジュールの話し合いを行った。
作業所スタッフは「以前の通所では個室で作業を行わせていたが、今回の体験通所では、多人数の部屋での作業に適応出来、色々な作業をしてみたいとも口にするので、自閉症状が改善していると思う。とても驚いた」と発言される。

本人は言葉少なではあるが、『発言したり』『うなずいたり』で意思表示が出来た。

以前は作業所の通所は親の送迎であっが、送迎バスまでは自宅から一人徒歩で行くこと(15分程度)が決まる。2週後の外来受診を約束して同日退院とした。

退院後3ヶ月経過
母と一緒に2週間毎に受診している。
作業所の送迎バスまで一人徒歩で行っている。
「日用品も独力で買いに行き、自立した生活が出来ている」と母親は話される。
本人との意思疎通は、問いかけに対する『うなずき』と多少の発語で可能となっている。

診療のポイント
幼少時より極めて適応状態の悪い高機能自閉症青年が長期間自宅に篭もっていたが、幻聴・興奮など精神病状態を呈した為入院治療に導入された。入院時は拒食、拒薬で強い拒絶状態であったが、ハロマンス筋注にて拒絶状態が改善した。その後抗精神病薬エビリファイを主剤とし、レクサプロ(こだわり改善)、リボトリール(不安改善)、セドリーナ(アカシジア改善)を加え薬物治療を行ったところ、精神病症状のみならず、自閉症の中核症状である自閉、対人的接触性も改善し、入院前よりも高い社会適応能力レベルに至った。この治療効果は主にはエビリファイによるものと思われる。エビリファイは、2016年に、自閉症スペクトラムに伴う易刺激性への効能追加が承認されたが、本症例では中核症状の自閉にも有効と考えられた。薬物奏効時に、看護師の適切な介入や、知的障がい者施設の支援者との緊密な連帯により、『生活圏を拡大させる試み』をした事で、劇的な改善が得られたのであろう。

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