入院症例17 新型うつ病とその治療過程・病態生理

Key word 非うつ病性病前性格 長期療養 復職直後再発 パート就労 治癒

20歳代 男性

【治療経過要約】
就職3年目の4月、頭痛などの身体症状を伴ううつ状態を発症した。勤務地での2ヶ月間の通院治療で改善せず実家での療養を勧められ帰省し、当院受診した。入院治療を勧めたが拒否。代案として勧めたデイケアも初日は行こうとするが体が動かなくなり参加できなかった。以後デイケアに時々通ったり、ゲームセンターに通うなどだらだらした日々を1年間過ごす。リハビリ入院により生活リズムや抑うつ症状が改善し復職したが、数日しか出勤できず挫折し退職。以後アルバイトを幾つかした後服飾関係のパート勤務で安定した。

高校卒。成績は中の上。高校の部活は登山部。卒後は県外の大企業の工場に勤務。寮生活。就職3年目4月「頭痛が2週間前からある。体がだるく仕事に行きなくない気持ちがある。1回の勤務が12時間の2交代制。労働時間が長く大変」などを主訴に勤務地のクリニック受診し、薬物療法開始された。症状が改善しない為、受診2ヵ月後実家での療養を勧められ帰省。当院初診に至る。

1)初診から入院まで
初診時
「仕事はどうだったの?」と問うと「工場のメインテナンス関係の仕事をしている。就職してからも勉強が大変。一番辛いのは仕事を覚えきれないから、勉強する事が多く、いくら勉強しても終わらない」と訴える。
「登山部だったね、どんな山に登っていたの?」と問うと「全然覚えていない」と返答する。

部活動として登った山の名前を一つも言えないのは健忘によるものではなく、物事に対して極めて希薄な興味関心しか示さぬ為であり、執着気質などの従来型うつ病の病前性格とは著しく異っていると筆者は感じた。
外来通院で治らないならばリハビリが必要だからと入院治療を勧めるも拒否。
初診時の問診からは「何を考えているのか掴みどころが無い」印象だった。思考運動制止は軽度であり、過重労働への拒否感から発症した抑うつ状態と考えた。
診断:抑うつ神経症
処方
1) サインバルタ(20mg)2C  1日1回 朝食後
2) レンドルミン(0.25mg)1T 1日1回 就寝前

入院治療の代案としてデイケア通所を勧めると、行ってみると言う。

初診後1ヶ月
デイケアに行こうとしたら、朝体が動かなくって出掛けられなかった。その後デイケアに行ったり行かなかったりの状況。母親によると気分の浮き沈みが激しく、悪いときは朝起こしても顔面蒼白となっているとの事。夜間は遅くまでインターネットをして、朝起きは出来ず、午後からはゲームセンターに通うのが主な日課である。自分の好きなことは出来るが、義務的な課題では体が反応してうつ状態となる典型的な新型うつ病の行動パターンである。

4ヶ月後
母親のみ受診。
本人は車に同乗して来たが、車から降りて受診しようとしない。
「朝が全く起きられない。もう駄目だ。皆に迷惑を掛ける」と言い自暴自棄になっていると母は話される。
拒絶状態と考え、うつ病・うつ状態(既存治療で効果不十分の時のみ)にも適応症のある抗精神病薬であるエビリファイを追加した。

処方
1) サインバルタ(20mg)2C   1日1回 朝食後
2) レンドルミン(0.25mg)1T
   エビリファイ(3mg)  1T 1日1回 就寝前

エビリファイ追加処方2週間後
本人受診
どうですか>そうですね。大分元気になった。そろそろデイケアに行きたいと思います。
何をしておられますか>そうですね。朝が一番調子悪い。午後になると普通になる。
眠りはどうですか>良いです。けど夜中に1回は起きます。

エビリファイ追加処方により、素直な感じとなり、疎通性が改善した印象あり。
以後治療終結まで処方変更は行っていない。

初診6ヶ月後のデイケア記録
仕事や現在の生活についてスタッフとの面談。
今の仕事は辞めるつもりはない。休んでいる間に色々な人と話すようになって大分元気になった。病気が治るまでは休もうと思う。今までの生き方を振り返ると、自分は何がしたいという事はなく「とりあえず・・・的な流れで今までやってきた」と話す。
以後もデイケアには月に2―3回通う程度で、家でゴロゴロしたり、ゲームセンター通い。「ゲームセンターでゲームをしながら常連と話すのが楽しい。エビリファイが追加されて気分的には楽」と言う。
だらだらした生活を続けるため、会社の人事課の担当者からも勧められ初診10ヶ月後本人が入院を決意する。

2)入院経過
入院時面接
どうですか>今日はまあ良いです。
どうして入院する気になった?>正直入院の必要があるかなとは思うけど、試しに入院してみようと思ったのです。

主治医より入院の目的を以下のように説明した
1)入院により規則正しい生活を送り、生活リズムの建て直しを行う。
3) 運動(散歩、チェアロビクス、卓球、バトミントン、柔道)を中心としたリハビリテーションを行い、気力・体力の増進を図る。
4) SSTに参加して職場でのコミュニケーション不足(仕事上の問題点を上司などに相談せず、一人で抱え込んでしまう)の改善を図る。

52日間のリハビリ入院を行った結果:消灯時間は23時を過ぎる事が多いが、入院治療により、一応生活リズムも整い、自覚的にも発病前の状態を100%とすると入院前は60%位だったのが80~90%の状態にまで改善した。主治医から見ても、ハキハキ話が出来るようになり初診時の「何を考えているのか掴みどころが無い印象」は消失した。

退院後の方針に関する主治医との話し合い
1) 退院後1ヶ月間は毎日デイケアに通う。
2) 復職プログラムは、やりながら修正を加え行う。
3) まずは半日勤務から始め、木曜日と土日は休日としたい。
以上の計画を自分で立案した。

退院日
会社の人事担当者、両親同席で話し合い。
会社としては上記申し出を受け入れた上で、「毎日日記を書きそれを提出して欲しい」と希望される。本人もこの件を了解し退院に至る。

3)退院から治療終結まで
退院後11日目外来受診
デイケアに毎日規則的に通所している。
日記をみせてくれる。
やれそう>はい。調子はものすごく良いです。
何が良かったかね>良く分からない。
でも元気になったね>はい。
最近は朝すっきり起きられると言う。
夜は早く寝ている>0時を過ぎる事はない。23時には寝ている。

予定通り退院1ヶ月後に復職した。
しかし、2日出勤し、3日目に以前と同じ状態になり休む。その後隔日に出勤した。会社から帰省するように言われて復職11日目に帰省した。

退院後48日目受診
会社では出勤3日目には起きられなくなり出勤出来なくなった。こちらに帰ってからはどうもない。会社では夜中に何度も目が覚める。
今後はどうする>会社に戻る気持ちでいる。
デイケアに通わない?>どうしようかと迷っている。
以後デイケアに通所。

退院後53日目
デイケアで職場復帰について話し合いをもつ。
復職して2日目から調子を崩した。その後は隔日に休んでしまい、出社11日目には帰るように言われた。自分としてはまたここから踏ん張ろうとした時だったので、帰るように言われたのは疑問に思う。1年間休んでその結果数日しか持たなかったので、1年間の過ごし方は何だったのかと思う。今後は「3ヶ月位デイケアに通ってから会社復帰を」と勧められたが、自分としては来月には復帰して、また駄目だったら辞めようと思う。辞めてからの事は何も考えていないが、とにかく都会には出ていたいと漠然としたイメージしか持てないでいる。仕事についての義務感が感じられない話しぶりである。

退院後77日目受診。
会社に復職したが、ほとんど出勤できなかったので出社後45日目に辞めた。病気にも理解のある良い会社だと思うが、今の仕事を続けるのは自分でも無理と思うし、会社にも迷惑を掛けるので退職を決めた。抑うつ気分などの症状はなく、逆に肩の荷が降りて楽になった。今後はバイトをして繋いで行きたいと話す。

その後、カラオケ店、パチンコ屋とアルバイトをしたが8時間労働のパチンコ屋では体調を崩し「吐く」ので辞めた。

発病後3年目
4月受診。
4月中旬からアルバイトが決まって働いている。服の仕事がしたかったので洋品店で働いている。朝が駄目なので夕方から5時間働いている。薬は時々飲み忘れるが、気分は安定している。

その後受診は途切れる。
自宅にデイケアスタッフより問い合わせの電話を入れると父親が応対。
月曜日から金曜日まで服飾店で順調にアルバイトに行っており、服薬しなくても安定していると話される。
以後2年半再発なし(連絡なし)。

診療のポイント

本症例は会社に行こうとすると「うつ」となり、「ゲームやインターネットなど自分の好きな事は元気に出来る」という巷では「怠けではないか」と云われる新型うつ病の典型的な行動パターンを示した。所属した会社は超優良企業であり、仕事はハードではあるが何年間病気療養しても給料は満額支給されるという極めて恵まれた労働条件の会社であった。薬物療法、入院治療、デイケアはこの症例には一見何の効果もなかったように見える。しかし、これらの治療過程や休職中の様々な体験を通じて成長し、自己の能力の限界と自分が本当にやりたい適職を見出し、安定治癒に至ったと考える。尚「わずか数日で仕事に行けなくなる」との病因はうつ病性病因(疲弊による神経伝達物質の枯渇)と云うよりは、ヒステリー性機序(外敵からおそわれた動物の死にまねに由来すると考えられる回避行動パターン)か、外傷後ストレス障害のようなフラッシュバック機序(恐怖の情動回路の条件刺激による賦活)のような即応答反応によるものと推察され、所謂「なまけ」ではないと考えた。

入院症例17 新型うつ病とその治療過程・病態生理 への2件のフィードバック

  1. 薬学生 のコメント:

    こんにちわ、久しぶりに来ました。薬学生です。
    実は、今回の記事と同じ、新型うつ病のケースで、処方例として出されているのは、
    サインバルタとレンドルミンです。サインバルタは、SNRIで、今回の記事と同様の新型うつ病でも、典型型のうつ病と同じです。抗うつ薬の処方は、意図がわかるものの、新型うつ病の場合、生活リズムの改善から、睡眠薬の処方が実際の臨床現場では行われているのかどうか、疑問を持ち、質問に伺いました。
    今回の記事においては、エビリファイの投与により症状が落ち着き、寛解に向かったのではないかと思いますが、これだけの投与で、生活改善が可能かどうか、医学的立場から、どのようにみますか。睡眠薬の投与について、意見を聞かせて下さい。
    お願いします。

  2. 西川 正 のコメント:

    うつ病で睡眠障害があれば一般的に睡眠導入剤を処方すると思います。本症例の薬物療法は症状改善効果はあったものの、復職に際しての再燃予防効果は不十分でした。

    『しかし、これらの治療過程や休職中の様々な体験を通じて成長し、自己の能力の限界と自分が本当にやりたい適職を見出し、安定治癒に至ったと考える』(入院症例17診療のポイント)の部分が私が新型うつ病の治療で最も強調したいポイントです。

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